サリンジャーと過ごした日々

週末なんとなくおしゃれできれいな映画を見たい気分で、好きなラジオパーソナリティーが『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』という作品について話していて、それで見に行ったらトキメキ感が最高で気に入った。それの原作本が、『サリンジャーと過ごした日々』。

 

数年前、本屋で文庫本を週に2,3冊買って読むほど村上春樹にはまっていたころ、その流れで彼が訳した『ライ麦畑で捕まえて』を読んだが、まったく性に合わなかった。太宰治(や、村上春樹)は、読者と合う合わないの相性が激しい、と言うけれど、サリンジャーもそういう類の小説家なのかしら。それともただ単に訳者と相性が悪かったのか。アメリカのティーンの必読書である印象はある。日本で言えばなんだろう。檸檬舞姫こゝろ山月記?(現代文の教科書掲載作品オールスター!)

 

サリンジャーがあんまり得意じゃないのに、サリンジャーを扱う映画を見ちゃって大丈夫かと思ったけど、全然面白かった。小説とは筋がだいぶ違うけど、学校を卒業したばかりの理想と期待が高い若い女性がお仕事を頑張って、そこでの人間関係に刺激を受ける物語、とても好き。『あの図書館の彼女たち』も同じお話だった。うらやましいのは、彼女らがとてもかしこくてチャーミングで、さらに周りの大人も自立していて素敵なこと。『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』が魅力的なのは、大人たちが仕事に誇りを持っていて自信たっぷりにふるまっているけど、実は心の隅に弱さを抱えていてきっかけで崩れてしまう様子を描いているところだと思った。

 

あと、お洋服がめちゃ素敵。髪を伸ばしたくなるよね…。きれいにカールさせて結んでリボンやバレッタで留めて、ブラウスとカーディガン、セーターとブローチ、チェックのタイトスカートやフレアスカート…と、適当に挙げてみてるけどすごく好み。

そんなお嬢さんのボーイフレンドが、社会主義者で小説家志望なのが変にリアル。ナチュラルに男性性を押し付けてくるあたりも、あるあるっぽくてにやける。絶対に大学時代の彼氏の方がいい奴なんだけど、なんか違うものに惹かれるんだよな。

 

しかし、世の中には、働く若者をああいうプロフェッショナルな文脈で評価しようとしてくれる上司がいるものなのだろうか。適性に合わせた職務や配置をされた経験はないし、なにかポジティブな声掛けをされたこともない。一度でもいいから、職場でコマとしてではなくて、能力を評価される存在になってみたい、そういう気持ちがある。くすぶりを抱えていても、私も徐々に若手ではなくなってきてて、私は次に向けてどうしようかどうなりたいのかを考えながら、悶々とする。彼女は小説家になりたかった。私はなにになりたいのだろう。

ジョアンナ・ラコフ、井上里・訳『サリンジャーと過ごした日々』柏書房、2015年)

 

発売日 : 2015-03-25